産業衛生と産業保健
1929年に産業衛生協議会(現、日本産業衛生学会)が創立されました。当時の記録によると、産業衛生の進歩改善を図ることを目的に創立された本学会は、産業保健・労働衛生分野の研究者、産業保健実務者や衛生行政関係者などが会員となり、労働衛生関係の事項について幅広く議論がなされたようです。
現在の学会の定款においても、本会の目的を「産業衛生に関する学術の振興と、勤労者の職業起因性疾患の予防及び健康維持増進を図り、もってわが国の学術と社会の発展に寄与すること」としています。そのため、本ウェブサイトにおいては、先人の「産業衛生の進歩改善を図ること」の意志を受け継ぎ、また、学会の定款に基づき、「産業衛生」という用語を用います。
一方で、学術的な意味合いを持つ「産業衛生学」という用語に対し、その実践の場である事業場などにおいては「産業保健」、行政的な視点では「労働衛生」、より医学的側面の強い研究や実践の場では「産業医学」という用語も日常的に用いられています。特に実践活動に対しては「産業衛生活動」よりも「産業保健活動」と表現する方が一般的になってきました。時代の変遷の中で「健康」という言葉の概念が変化するように、「産業衛生」「産業保健」「労働衛生」「産業医学」などの言葉の用いられ方も変化しています。
本ウェブサイトでは、「産業衛生」「産業保健」「労働衛生」はほぼ同義語として取り扱いつつ、上記の理由から「産業衛生」という用語を用います。かつ、学術領域としての「産業衛生学」と、実践領域としての「産業保健活動」を区別して用います。用語の混在や分かりにくさなども感じられるかもしれません。お気づきの点などございましたら、情報発信・交流の場としての本ウェブサイトの活用という意味でも、ぜひご意見をお寄せください。
産業保健とは
産業保健(産業衛生や労働衛生とほぼ同義語)は、労働者個人の健康管理はもちろんのこと、職場環境の改善やより良い職場文化の形成、さらには社会全体に寄与する幅広い活動です。
日本産業衛生学会 産業保健専門職の倫理指針(2000)
「産業保健活動の主目的は、労働条件と労働環境に関連する健康障害の予防と、労働者の健康の保持増進、ならびに福祉の向上に寄与することにある。産業保健専門職は職域における安全衛生の確保をはかる労使の活動に対して専門的立場から関連する情報の提供、評価、助言などの支援を行う。その活動対象には、個々の労働者だけでなく、労働者が所属する組織、地域をも含む。」
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ILO/WHO(国際労働機関/世界保健機関)合同委員会(1995)
「産業保健は以下のことを目指すべきである。すべての職業におけるすべての職業における労働者の身体的、精神的及び社会的健康を最高度に維持、増進させること、労働者のうちで労働条件に起因する健康からの逸脱を予防すること、雇用中の労働者を健康に不利な条件に起因する危険から保護すること、労働者の生理学的、心理学的能力に適合する職業環境に労働者を配置し、維持すること、以上を要約すれば作業を人に、また、人をその仕事に適合させることである。」
[参考文献]堀口俊一(2002)産業衛生の目的、産業医学実践講座(日本産業衛生学会近畿地方会編)、p3、南江堂