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産業保健生涯教育ガイドライン要綱・生涯教育委員会

産業保健生涯教育ガイドライン要綱

日本産業衛生学会生涯教育委員会

日本産業衛生学会生涯教育委員会は、産業保健専門職の生涯研修のあり方と研修内容について検討を重ねてきたが、その討議結果を「産業保健生涯教育ガイドライン要綱」としてまとめ、平成15年12月23日の日本産業衛生学会理事会において承認されたので報告する。この「要綱」は、生涯研修に必要と認められる16ステップで構成されており、学際的な産業保健専門職活動としての生涯研修プランの全体の枠組みを示すものである。産業保健専門職のための研修計画の策定、研修実施にあたっての助言、研修の効果的な進め方等について、参考とされることが望まれる。

<生涯教育ガイドラインのねらい>
産業保健専門職には、産業現場に働く労働者の健康を保護し、その従事する事業の健全な経営に資するために、その役割をよく認識して専門能力を十分に発揮することが求められている。したがって、この活動目的に沿って日常業務を遂行するとともに、生涯研修に不断に努めることが各専門職にとって欠かせない。
この生涯教育ガイドライン要綱は、産業保健専門職が日常行う専門業務にとって必要な範囲、その業務遂行上の要件、基礎的方法について総合的に研修する際の共通学習内容を要約してまとめている。研修に当たっての個々の研修項目の内容と技法については、さらに詳述した解説が必要であるが、研修の目標と範囲、意義をまず知ることが極めて重要と考えられるので、ここに要約部分をガイドライン要綱として提示することとしたのである。
今、産業保健業務は、国際的にみて大きな転換期にあり、生涯教育を行うに当たっても、新しい産業保健業務のあり方を組み込んで研修していく必要がある。そうした産業保健業務の転換の背景となっているのが、情報通信システムを含む新技術の急速な進展と就業構造の多様化、さらに人口構成における高年齢化および少子化の影響を受けた労働者の健康問題の変化である。それに伴い、労働者の健康問題の解決に、労働安全衛生マネジメントシステムの円滑な運用が必要であると認識されるようになった。産業保健業務についても、そうした企業経営と一体となった労使による安全衛生マネジメントシステムを直接支援する取り組み方が重視される。労使による職場の健康リスクの評価と対策実施をどう支えられるかが、産業保健専門職の中心の課題になっており、職場の健康リスク評価とその評価結果に基づく対策実施とについて労使に助言し、改善を支援する方向をとる必要がある。
そこで、生涯教育に当たっては、こうした新しい動向にそった専門職としての総合的な業務範囲と向かうべき方向を知り、自らの具体的な条件に即して力点をおく領域を見定めておくことが大切である。このガイドライン要綱は、生涯教育のこの意味の目標設定に役立つ指針が得られるように構成されている。
この要綱は、「日本産業衛生学会産業保健専門職倫理指針」にそって構成されており、この倫理指針とあわせ読むことが望まれる。

<生涯教育ガイドライン要綱の構成>
次の16ステップに産業保健専門職が生涯教育を目標として研修する範囲がまとめられており、各ステップごとにそのねらいと研修内容を示してある。

産業保健活動を職場に組織する
<ステップ1>産業保健活動の課題を理解する
<ステップ2>産業保健に必要な情報を収集しニーズを把握する
<ステップ3>産業保健方針と計画を確立する
<ステップ4>産業保健組織を確立し維持する

職場の健康リスクの総合評価と対策を推進する
<ステップ5>健康有害要因を評価する
<ステップ6>労働者の健康影響を評価する
<ステップ7>現場ごとに必要な健康リスク対策を選定する
<ステップ8>健康リスク対策の実施を推進する
<ステップ9>健康増進活動を促進する

連携して産業保健活動を充実させる
<ステップ10>作業適性と病後復職を支援する
<ステップ11>救急およびプライマリーケア体制を確保する
<ステップ12>環境マネジメントを促進する
<ステップ13>科学的研究とその普及に貢献する
<ステップ14>産業保健活動を監査する

専門能力をいっそう向上させる
<ステップ15>産業保健専門能力を向上させる
<ステップ16>コミュニケーション能力を発揮する

<各ステップの内容>
生涯教育ガイドライン16ステップの各ステップは、次の内容で統一されている。
[A:このステップのねらい]
2~4項目の研修達成点、つまり産業保健専門職としての専門能力(competence)の定義を記述してある。併せて、直接のパートナーと主な関係条項・指針の一覧を付記してある。
[B:研修内容]
研修目標、研修する内容、研修のポイントの3つの欄からなる。「目標」は、先の研修達成点に対して具体的な目標を示しており、「内容」では各目標に関して2~3の具体的研修内容を示している。また、「ポイント」では研修の取り組みに当たって考慮すべき点について触れている。
それぞれのステップごとに、研修のねらいと内容が完結するように配慮されている。研修を行うに当たって、各自の状況や実務経験に合わせて生涯教育として取り組む範囲と方向性がつかみやすいように[B:研修内容]の中で必要なサブステップを(a)と(b)の2つに分けて示して、研修内容の概要を解説している。主として、(a)は研修に必要な範囲を示し、(b)はその研修の実を挙げるために必要な経験と演習を示すように考えられている。
また、各サブステップの内容は、上述のように、全体の16ステップの中に位置づけられているので、常に総合的な見地からみた産業保健業務との関連を確かめながら各自の状況に合わせた重点的な研修を行うように構成されている。

<ガイドライン要綱の利用について>
各ステップに含まれる専門知識、専門能力のレベルは、従前の修得内容や実務経験にしたがってさまざまであると考えられる。しかし、総合的な産業保健のアプローチ、専門職として果たすべき助言と職場支援の役割は基本的に共通しているはずであり、16ステップの内容を全体としてカバーした研修成果がえられるように各自の研修計画をたてることができると考えられる。本要綱の利用の方法は、研修者によって異なると考えられるが、一般的な研修のすすめ方を「利用の手引き」としてまとめてあるので、参考にしていただければ幸いである。
 生涯教育委員会では、このガイドライン要綱の解説としての研修の要領とQ&Aを作成しており、要綱と合わせて配布することを企図している。また、産業保健専門職の職種別に参考となる、より詳細な内容も逐次まとめる予定である。

このガイドライン要綱が、会員の生涯研修に際して目標の設定と研修方向付けに役立つことを期待している。研修に必要な資料と教材についても整備する必要があり、会員の豊富な経験に基づいてこの要綱をさらによりよいものにしていくべきと考えられる。本要綱についてのご意見とその利用にあたっての提言を委員会事務局宛に寄せてくださるようお願いする次第である。

連絡先:216-8501川崎市宮前区菅生2-8-14 労働科学研究所
日本産業衛生学会生涯教育委員会事務局
FAX: 044-977-7504
E-mail: a.ito@isl.or.jp

日本産業衛生学会 生涯教育委員会
委員長  小木 和孝
委員(五十音順)伊藤 昭好
加藤 登紀子
川上 憲人 
日下 幸則 
熊谷 信二 
高田 志郎 
千葉 百子 
富山 明子 
中屋 重直 
藤代 一也 
矢野 栄二 
渡辺 厳太郎
渡邊 達夫 
以上

産業保健生涯教育ガイドライン要綱の利用の手引き

まず16ステップの構成をよく理解することが勧められる。現在の産業保健専門職の専門能力は、労使による安全衛生マネジメントシステムを直接支援する取り組みを基盤としているので、その視点から、研修に取り組むことが望まれる。例えば、本要綱は次のように利用していくことができる。

1.生涯教育ガイドライン要綱は16ステップからなるので、全体の構成を通覧して、研修に当たって力点をおくステップを選んでおくことが勧められる。各ステップについて、掲げられている研修目標から見て、当面必要な研修内容をおおよそ洗い出しておく。16項目全体について順を追って研修課題とする場合と、力点をおくステップをその中から適宜選んで研修課題としていく場合とがあると考えられる。

2.次に、研修課題にしたステップごとに、現状から見て必要な研修内容を把握する。そのステップの終わりに行えるようになる事項が「A.このステップのねらい」に記されているので、それに従って当面必要な知識および実地業務を概観することができる。現在日常行っている産業保健実務からみてどの点に研修の力点をおくべきかを見極めるようにする。

3.「B.ステップの研修内容」には、研修目標を区分けして「研修する内容」が述べられているので、この内容をみて、各自が力点をおきたい研修内容の具体的な方向づけを行うことがすすめられる。これらの研修目標ごとに、現状に即して特に詳しく研修すべき点をまず書き出しておくことが望まれる。

4.このようにステップごとにそのねらいを(A)から学び、(B)各ステップの研修内容を概観した上で、優先順位を決めて、必要度の高い研修内容から重点的に研修を行うことができる。述べられている研修内容は、各自の達成度を評定する際にも役立てられる。

5.このため、ステップ番号の若い方1から順番に研修を進めていく必要は必ずしもなく、場合によってはステップ16を最初に研修する等、各自が利用しやすいように組み立てていくことが望まれる。

6.また、独自に研修会等を企画する際に、これらの16ステップのどこに力点をおくかを定める上で、この要綱を参照する利用の仕方も考えられる。例えば、「メンタルヘルスマネジメント」などのように個別テーマを扱う場合も、その内容としてステップ5・6を核としてステップ1~4を扱い7、9等にも関係する内容とすることができる。今後専門職への研修を企画する場合、本ガイドライン要綱のどのステップを中心に、かつ他のどのステップに関係するかを意識しながらプログラムを作成することが期待される。

7.本ガイドライン要綱は、産業保健専門職としての必要最低限度の知識・技能を挙げたものではなく、生涯にわたって研鑽する際の羅針盤のような機能を目指したものである。学会員各位におかれては、本要綱を常にデスクサイドにおき、本学会の「産業保健専門職倫理指針」と併せて活用されることが希望される。

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