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(2004年9月18日理事会)

「労災保険民営化」には慎重な対応を(声明)

社団法人日本産業衛生学会理事長  藤木幸雄

 内閣府の総合規制改革会議は2003年7月28日に構造改革特区・官製市場ワーキンググループの基本的見解として「労災保険の民間開放の促進」を公表した。それをみると「労災保険については、未加入事業者の増大、保険料率等の算定根拠が不明瞭である等の問題点が多く、また、経営効率悪化が指摘される労災病院等、労災保険で賄われている労働福祉事業の存続意義も失われている。労災保険の対象とするリスクは民間損害保険と同質であることから、自動車損害賠償責任保険と同様に、保険認定や保険料徴収・保険給付等の事務の民間損害保険事業者等への全面的な委託や事業委託等も含め、保険運営の効率化を検討する」という内容である。

 わが国の現行の労災保険制度は、事業者と労働者の双方を労働災害のリスクから保護する社会保障制度の一環として政府管掌保険という形態で運用されてきた。この労災保険が自動車損害賠償責任保険のように民間にその運営が任された場合、社会保障としての労災保険の運用に様々な支障をきたすことが予想される。

 この点については、本学会「労働衛生関連法制度等検討委員会」の審議と問題点のとりまとめを経て、学会理事会では現場の労働衛生管理や労働者の安全及び健康の確保という観点から検討し、以下のように意見をまとめた。

 もし労災保険が民営化されることになれば、次のような影響が危惧される。

  1. 労働災害や業務上疾患について労災申請がなされる場合に、その認定基準の平等性や一貫性が阻害される可能性がある。特に近年、増加してきている過重労働による健康障害、自殺や精神障害、職業癌などの事例でその認定の実務に公平性が維持できなくなることが懸念される。
  2. 現状でも労災保険の未加入事業者は中小零細事業場が多く、これらの事業場は労働災害のリスクの高いことでも知られている。このような中小零細事業場の労災保険未加入の状態が放置されるか、ないしは、さらに悪化することが懸念される。
  3. 労災保険と労働基準行政が分離することになり、労災発生事業場に対する指導や予防対策などが一体として効果的に機能しなくなる。
  4. 事業場からみれば、保険料の安く、補償の不十分な民間企業に流れる傾向にあり、また、民間保険会社の間でも労災保険による補償の最低水準かつ均一性が保てなくなる。
  5. 現状の制度では被災者の事業場が労災保険に未加入であっても、後に加入すれば補償が受けられる制度があるが、民間保険会社ではこの制度はビジネスメリットがなく、この制度の維持が事実上困難になることが懸念される。等の問題点が予想される。

 以上に指摘したように、もし労災保険民営化がなされた場合にもたらされる影響について労働安全衛生に関する専門学会の立場で検討した結果、今回出された労災保険民営化の提起は、現場の労働衛生管理や労働者の安全及び健康の確保という観点からみて有利な面はないと考えられる。ここに本学会は、内閣府総合規制改革会議、ならびに厚生労働省などの関係省庁におかれては、その扱いに関して今後、十分に慎重な対応をされるように要望する。

 
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